以下の損害認定のうち「もっとも、上記各懲戒請求は、それぞれ、同一の懲戒事由で行われたものであること(前提事実⑻)からすると、答弁書等の提出や弁明の準備に関し、他の懲戒請求のものを参照することにより、相当程度省力化ができたものと考えられる。また、原告には、上記のとおり、実際に答弁書等を作成・提出する負担までは生じていない上、弁明のための準備の負担が科された期間も22日あるいは24日程度(甲4,5、弁論の全趣旨)と短期間に止まっている。」とある部分は、原告が裁判官に対して事実を述べなかったことによる。
事実は、神奈川県弁護士会から調査開始と議決書は同封されて届いたものであるため、弁明のための準備期間はゼロ日が正しい。この点で嶋﨑氏は損害額は「200万円を超えない」と算定されており、被害を過大に見せて裁判所を欺いたと言える。
別訴ではいずれも100万円が損害の上限であり、嶋﨑氏の事実を隠ぺいした訴訟活動により損害は200万円となった。これは他の弁済済みとされた訴訟の倍額に相当する。
本件共同不法行為により原告に生じた損害の内容及び額を認定するに当たっては、本件共同不法行為を構成する行為の態様とそれらにより原告が受ける不利益の内容・性質・程度を総合考慮して判断するのが相当である。
(ア) 以上の見地から、まず、本件共同不法行為を構成する行為の態様について検討すると、本件運営者は、多数の者を扇動し、それらのものを手足として原告に係る懲戒請求をさせたこと、個々の懲戒請求者は、本件運営者あるいはその意を汲んだ者に呼び掛けられるまま、付和随行し、集団で上記各懲戒請求をしたこと、その際、本件運営者の示す方法に従って個別の懲戒請求書を作成し、それらをあえて独立したものとして、本件団体をして提出させていること(前提事実⑺、⑻、弁論の全趣旨)からすると、原告の弁護士活動に集団で打撃を与える積極的かつ攻撃的な行為をしたというべきであるから、その違法性の程度は強いものであったといえる。
もっとも、本件全証拠によっても、本件運営者や個々の懲戒請求者に十分な法律知識等があったとは認めるに足りず、上記各懲戒請求につき法律上又は事実上の根拠を欠くことを知っていたとまでは認めることができない。
(イ) 次に、原告が受ける不利益の内容・性質・程度について検討すると、原告は、本件共同不法行為により、見ず知らずの多数の者から悪意を向けられて、現実の攻撃対象とされた(前提事実⑺、⑻、弁論の全趣旨)のであるから、相当の恐怖や不安を覚えたものと認められる。
また、原告が本件共同不法行為を構成する懲戒請求に関して神奈川県弁護士会に答弁書を提出した事実は認められないものの、同弁護士会から調査開始の通知を受けた日から懲戒しない旨の決定の通知を受けた日までの間(甲4,5,弁論の全趣旨)、弁明のために何らかの準備をする負担が生じたことは否定できない上、少なくとも原告が現に受任し、あるいは受任しようとしている事件の依頼者等が上記懲戒請求者らに該当しないか当を確認する事務処理上の負担が生じたことも否定できない。
加えて、一般に懲戒請求を受けたという事実が第三者に知れた場合、対象弁護士の業務上の信用や社会的信用に影響が生じ、場合によっては、新規あるいは既存の顧客の喪失等による不利益が生じ得るものということができる。
もっとも、上記各懲戒請求は、それぞれ、同一の懲戒事由で行われたものであること(前提事実⑻)からすると、答弁書等の提出や弁明の準備に関し、他の懲戒請求のものを参照することにより、相当程度省力化ができたものと考えられる。また、原告には、上記のとおり、実際に答弁書等を作成・提出する負担までは生じていない上、弁明のための準備の負担が科された期間も22日あるいは24日程度(甲4,5、弁論の全趣旨)と短期間に止まっている。
さらに、原告は、本件口頭弁論の終結に至るまで、既存の顧客を喪失する抽象的な可能性を指摘するにとどまり、具体的な主張・立証をしていないから、少なくとも原告が懲戒請求を受けたことを理由に既存の顧客を喪失した事実までは認められない。このことも踏まえると、原告が主張する業務上の信用や社会的信用の低下の程度が深刻なものであったとまでは認め難い。
(ウ) 以上の事情を総合すると、本件共同不法行為により原告に生じた精神的損害を慰謝するに足りる金額は、弁護士費用を含めて200万円を超えるものではないと認めるのが相当である。
(エ) 原告らは、懲戒請求の手続に付された弁護士は、同手続が結了するまでは、他の弁護士会への登録換又は登録取消の請求をすることができないという非常に大きな身分的制約が課される旨主張数r。確かに、懲戒請求の手続に付された弁護士は、他の弁護士会への登録換及び登録取消に関し、一時的に制約が課される(弁護士法62条1項)ものの、原告の陳述書等(甲8,9)及びその他の証拠によっても、原告が他の弁護士会への登録換等を実際に予定した事実を認めるに足りない。
また、原告は、原告に係る懲戒請求は弁護士としての社会的発信に対してではなく、私的な表現行為である本件書込みに対して行われたものであり、強い恐怖心を覚えた旨主張する。上記各懲戒請求が原告に恐怖心を生じさせるものであったことは上記(イ)において認定・説示したとおりであるが、原告がアカウントの登録名により弁護士であることを明らかにして本件書込みをしたこと(前提事実⑹)からすると、本件書込みは、公的な存在として一定の批判にさらされることを甘受すべき弁護士としての活動とおよそ無関係な表現行為とまでは言い難い。
これらを踏まえると、原告らが指摘する上記斯く事情を考慮しても、本件各共同不法行為により原告に生じた損害額は上記(ウ)のとおりというべきである。
損害の填補の有無
(ア) 他の懲戒請求者らによる弁済
証拠(甲25,乙9の1、9の2,9の6、9の8、9の12、9の13,9の15、9の17~9の19)によると、原稿は本件共同不法行為を構成する原告に係る懲戒請求をした者ら(被告ないし選定者らを除く。)のうち一部の者に対する債務名義を取得し、上記各懲戒請求をしたことに関する損害賠償金として、これまで少なくとも合計155万4307円の弁済をうけた事実が認められる。
また、原告は、上記懲戒請求をした者らのうち一部の者との間で、損害賠償金として、訴えの提起前であれば5万円、訴えの提起後であれば10万円の支払を受ける旨の和解をしたことが認められる(甲13,弁論の全趣旨)からすれば、原告は、これまで少なくとも約20名(上記合計155万4307円の弁済をした各懲戒請求者を除く。)との間で、上記和解をしたものと合理的に確認できる。そうすると、原告は、上記155万4307円の弁済をふくめて、本件口頭弁論終結時に至るまでに少なくとも合計300万円の弁済をうけたものと認められる。
(イ) 上記(ア)の弁済により、本件各懲戒請求による損害が填補されたかどうか
既に認定・説示したとおり、上記(ア)の弁済をした者らによる各懲戒請求と本件各懲戒請求はいずれも本件共同不法行為を構成するから、上記(ア)の弁済は、被告ないし選定者らとの関係において、他の共同不法行為者による、本件共同不法行為により原告が被った損害への賠償との意味合いを有し、各共同不法行為者が連帯して負う損害賠償債務の目的を消滅させるものということができる。その結果、上記弁済(給付)は、本件各懲戒請求により原告が取得した被告ないし選定者らに対する損害賠償請求権(債権)について行われ、これを消滅させるものというべきである。
そうすると、上記イのとおり、本件共同不法行為により、原告が既に少なくとも300万円の弁済を受けたことからすれば、本件共同不法行為を構成する本件各懲戒請求による損害は、それに係る確定遅延損害金を含め、既に填補されたと認めるのが相当である。
(ウ) 原告の反論について
原告は、仮に原告に係る懲戒請求が共同不法行為を構成するとしても、各懲戒請求者の間には因果関係要件の緩和を正当化し得るほどの強い関係性が認められないから、民法719条1項後段が適用されるべきであるところ、他の懲戒請求者らに対して取得した債務名義及び他の懲戒請求者らとの間でした和解は、単独不法行為であることを前提としたものであるから、その者らがした弁済は、同人らの懲戒請求と個別的因果関係を有する損害のみに充当され、個別的因果関係のない本件各懲戒請求による損害には充当されない旨主張する。
しかし、既に認定・説示したとおり、上記懲戒請求には客観的のみならず主観的にも関連共同性が認められるから、強い関係性があるというべきであるし、原告に生じた上記イの損害が、上記各懲戒請求者のうちいずれの者の懲戒請求により生じたかが不明な場合ではないから、同項公団の適用場面であるとはいえない。したがって、上記(ア)の弁済は、本件共同不法行為を構成する本件各懲戒請求による損害およびそれに係る確定遅延損害金に充当されるものというべきであって、原告の上記主張は採用できない。
また、原告は、故意による不法行為の場合には、加害行為者自身から直接賠償を受けるのでなければ慰謝されない精神的損害が生じるとして、当該精神的損害に関しては、他の共同不法行為者がした弁済による店舗を主張することが許されない旨主張する。
しかし、既に認定・説示したおとり、本件運営者及び各懲戒請求者らが原告に係る懲戒請求につき法律上又は事実上の根拠を欠くことを知っていたとまでは認められないから、本件共同不法行為が故意による不法行為であるとは認めるに足りない。また、この点を措くとしても、原告が受けた精神的損害は金銭の支払によって慰謝され得る性質のものであるところ、その金銭を誰が支払うかにより、かかる性質が左右されるとにわかに言うことはできないから、本件各懲戒請求により原告が受けた損害および確定遅延損害金は、上記(ア)の弁済により全て填補されたと認めるのが相当である。なお、このように認めたとしても、被告ないし選定者らは、上記(ア)の弁済をした他の懲戒請求者らに対して求償債務を負っているのであるから、不法行為責任を不当に免れさせるものとはいえない。
さらに、原告らは、本件共同不法行為による損害額については、「個々の懲戒請求が単独の不法行為として認められた場合における損害額」と「懲戒請求をした者の数」を積算する方法により算出すべきである旨主張するようであるが、原告に係る懲戒請求が共同不法行為を構成することにつき主張立証がなく、それらが単独の不法行為であると認定せざるを得ない場合の損害額は、あくまで単独の不法行為としつつも、他の多数の者らにより同様の懲戒請求が行われた事情を「特別の事情」(民法416条2項類推適用)として評価・算出された金額であると考えられるから、当該金額に懲戒請求をした者の数を単純に乗じて本件共同不法行為により生じた損害額を算出すると、同一の事情を金銭的に二重に評価することになり、不合理である。したがって、原告が主張する上記算出方法は採用できない。
第4 結論
以上によれば、被告ないし選定者らによる違法な本件懲戒請求により原告が受けた損害は既に填補されたと認められるから、本訴債権はいずれも消滅している。
したがって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
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