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571 大御心と詔

日本建国の理念と伝承


伝統文化の起源―神武天皇の建国宣言


 日本において、共助社会と共生文化はどのように育まれてきたのでしょうか。

 日本神話にある、神武建国の物語を見てみましょう。

 すでに述べたように、初代神武天皇が奈良の橿原に都を開くにあたり、人々が睦まじく和する社会を理想として、その国の名を「大和」としました。

 その時の神武天皇の国民への呼びかけは、「橿原建都の詔」として「日本書紀」に記されています。


夫(そ)れ大人(ひとり)の制(のり)を立つ

義(ことわり)必ず時に随(したが)ふ

いやしくも民(おおみたから)に利(くばり)有らば

何ぞ聖造(ひじりのわざ)に妨(たが)わむ

且(また)まさに山林を披(ひら)き払い

宮室(おおみや)を経営(おさめつくり)て

恭(つつし)みて寶位(たかみくらい)に臨み

以て元元(おおみたから)を鎮(しず)むべし

上は即ち乾霊(あまつかみ)の國を授けたまう徳(うつくしび)に答え

下は即ち皇孫(すめみま)の正(ただしき)を養ひたまえふ心を弘めむ

然して後に六合(くにのうち)を兼ねて以て都を開き

八紘(あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)と為(せ)むこと

亦(また)よからずや

夫(か)の畝傍山(うねびやま)の東南(たつみのすみ)

橿原の地を観れば蓋(けだ)し國のもななか

治(みやこつく)るべし



 「夫れ大人の制を立つ義必ず時に随ふ」とは「人が定める社会の制度や法は、地域風土や自然気象、そして時々の人々の実情に鑑みたものでなくてはならない」ということです。社会の規範や制度が、支配者の自己本位の意志を強要するものであったり、特定の思想を法の強制力を持って強制してはならないのです。

 すでに述べたとおり、「のり」は、「祈り=意を宣る」からきており、集団で祈りを唱える「祝詞」が、「のり(法)」でした。つまり、日本人の法概念は上からの強制ではなく、人々の合意された意思が「のり(法)」なのです。そして、人々の思いを「しろしめす」天皇が宣るお言葉、すなわち「みことのり」こそが日本人にとっての最高法規です。


 そしてまた、人間は自然の一部であって、自然の摂理の中で子々孫々にわたり生成を繰り返しています。したがって人間社会の制度や法も、自然の摂理に従うことが正しいとする「古事記」冒頭の考えを反映しています。

 自然の摂理とは、日本神話の中では、宇宙創元の天御中主之神、高皇産霊神、神産霊神の造化三神をはじめとする神々の御心の継承です。

 特定の人間が定めた制度や法を普遍的、絶対的なものとすると、自然の摂理に反するおそれがあります。だから人間は、自然に対して謙虚さを忘れず、自然の中の分をわきまえなければならない、ということです。


 では、国家を造り運営するには何をもって「正しさ」の基準とするかといえば、「民に利有らば何ぞ聖造に妨わむ」と記しています。つまり「民が幸福であればそれは、神の意(自然の摂理)に沿うものだ」といっています。もちろんこの場合の「民」とは集団としての民「在所共同体」です。民を「おおみたから(大御宝)」と大和言葉で読むことで、いかに民を大事にしているかがわかります。日本の建国の目的は「民を幸せにすること」です。


 「恭みて寶位に臨み以て元元を鎮むべし」は、民が安心して心を鎮めて暮らせるように、天皇の御位に臨まれることの御自らの決意と御責務を述べています。

 「上は即ち乾霊の國を授けたまう徳に答え」は「天皇は天津神から命じられた「しろしめす」つまり、すべての民の心情や念願を知り民を幸福にするという御責務を果たす」ということです。これは、大変な重責を自らに負わせたわけです。国家の長たる天皇は、国民の幸福の全責任を負うことを神にお誓いになったわけです。ですから、ご歴代の天皇は、国民が不幸になるようなことがあれば、それが天皇の大御心に反した、時の権力者によるものだとしても、さらには地震や津波などの自然災害によるものだとしても、すべてが自分の責任であるとして御自らを責め、全身全霊で国民の幸福を回復するためのご努力をなさいました。


 「下は即ち皇孫の正を養ひたまえふ心を弘めむ」は、「国民は、天皇の心と一つになって、その徳を実践しよう」ということでしょう。

 天皇陛下がいくら模範を示しても、下々がその模範を見習わなければ、社会はよくなりません。

 国民がいかに伝統文化を体現して共助的に生きようとしても、国や社会のリーダーが利己的で実益主義では、やはり社会はよくなりません。

 上下の者の努力があってこそ、社会は良い方向へと向かいます。君民一体の日本の国柄は、天皇と国民が心を一つに共生共助の努力を怠らないことに意義があるのです。


 「然して後に六合を兼ねて以て都を開き八紘を掩ひて宇と為むこと亦よからずや」とは、「そのように天皇と国民が共に努力することで、国全体を一つの家(家族)のような社会として創り為そうではないか」との国民への呼びかけです。大和の国の中心の橿原に都を開き、一つの家のような国づくりを君民一体となって行おうではないか、というのが、神武天皇の建国宣言です。

 国民の幸福を祈る天皇に国民が心を寄せ、天皇を中心に国民が心の絆で一体となり、国民の幸福を国民の力で作り為していく共生共助共栄の社会です。

 この神武天皇の建国宣言が、私たち日本人が育んできた伝統文化の起源です。


国家の統治者のあるべき姿


 この神武天皇の詔勅を、戦前、日蓮主義者の田中智學が国体研究を通じて「八紘一宇」と表しました。この言葉の解釈について、本人が「日本国体研究」の中で、人種も風俗もそのまま、国家も領土も民族もそれぞれその所を得て、各国の特色特徴を発揮して天皇中心の一大生命に趨帰する、と説明しております。ですから、この言葉の意味は、覇権主義とは正反対のものですが、米国の対日戦プロパガンダで曲解されて、日本の覇権主義のスローガンとみなされてしまいました。

 理念を掲げ、それと違うものは駄目とするは、いかにも宗教的、あるいはイデオロギー的なものの考え方です。「一つの家のような国を創り為そう」という目標に向かって、君民一体となって協心努力しようという呼びかけが建国の理念です。


 その中心として、民に模範を示されるのが寶位に臨まれる天皇陛下です。私たちは、自分の考えや為すことが正しいかどうかを判断するとき、それが天皇陛下の大御心に副うものかどうかを考えればいいのです。正しい司法、正しい行政は、それが天皇陛下の大御心と同じかどうかでわかります。現行憲法は、国の司法・行政・世俗政府の決定に天皇陛下を従わせるという考えですから、根本から間違っています。


引用元

荒谷卓 「サムライ精神を復活せよ!」





 

今上陛下のお言葉


「なお一層心を一つに」天皇陛下のお言葉全文

2021/8/15 13:02

https://www.sankei.com/article/20210815-OQLD3Y3CWRMKDJGTZDG5JL5ZHM/


本日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。


終戦以来七十六年、人々のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき、誠に感慨深いものがあります。


私たちは今、新型コロナウイルス感染症の厳しい感染状況による新たな試練に直面していますが、私たち皆がなお一層心を一つにし、力を合わせてこの困難を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います。


ここに、戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。



 

上皇陛下のお言葉


天皇陛下「心一つに寄り添って」 震災追悼式お言葉全文

2015年3月12日 0:11

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG11H5M_R10C15A3CR8000/


東日本大震災から4年がたちました。ここに一同と共に震災によって亡くなった人々とその遺族に対し、深く哀悼の意を表します。


4年前の今日、東日本を襲った巨大地震とそれに伴う津波により、2万人を超す死者、行方不明者が生じました。テレビに映った津波の映像は決して忘れることのできない、本当に恐ろしいものでした。死者、行方不明者の中には危険を顧みず、人々の救助や防災活動に従事した人々があったことが今も痛ましく思い出されます。被災地で、また避難先で、被災者の多くが今日もなお、困難な暮らしを続けています。特に年々高齢化していく被災者の健康は深く心に掛かります。


さらに、この震災により、原子力発電所の事故が発生し、放射能汚染地域の立ち入りが制限されているため、多くの人々が住み慣れた地域から離れることを余儀なくされました。今なお、自らの家に帰還する見通しが立っていない人々が多いことを思うと心が痛みます。


この4年間、被災地においては、人々が厳しい状況の中、お互いの絆を大切にしつつ、幾多の困難を乗り越え、復興に向けて努力を続けてきました。また、こうした努力を支援するため、国内外の人々が引き続きいろいろな形で尽力しています。この結果、地場産業の発展、防災施設の整備、安全な居住地域の造成などさまざまな進展が見られましたが、依然として被災した人々を取り巻く状況は厳しく、これからも国民皆が心を一つにして寄り添っていくことが大切と思います。


このたびの大震災においては、私どもは災害に関し、日頃の避難訓練と津波防災教育がいかに大切かを学びました。こうした教訓を決して忘れることなく子孫に伝え、より安全な国土を築くべく努力を続けることが重要であると思います。


この14日から宮城県仙台市において第3回国連防災世界会議が開催されますが、この会議において、わが国のみならず世界各国においてもこのたびの大震災の教訓が分かち合われ、被害の軽減や人々の安全性の確保に意義ある成果が上げられることを願っています。


被災地に一日も早く安らかな日々の戻ることを一同と共に願い、み霊への追悼の言葉といたします。

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