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0150 北周士広島地裁で棄却判決!

令和元年11月29日判決言渡

平成31年(ワ)第69号損害賠償請求事件


主文


被告らは,原告佐々木に対し,別紙主文目録の「選定者」欄記載の各選定者のために,各選定者の記載に対応する別紙主文目録の「金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成29年12月31日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。


2 原告佐々木のその余の請求をいずれも棄却する。..

3 原告北の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は,被告らに生じた費用の4分の1と原告佐々木に生じた費用の.. 2分の1を原告佐々木の負担とし,被告らに生じた費用の2分の1と原告北に生じた費用を原告北の負担とし,被告らに生じたその余の費用と原告佐々木に生じたその余の費用を被告らの負担とする。

5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。


事実及び理由

第1 請求..

1 被告らは,原告佐々本に対し,別紙請求目録の「選定者」欄記載の各選定者のために,各選定者の記載に対応する別紙請求目録の「金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成29年12月31日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。


2 被告らは,原告北に対し,別紙請求目録の「選定者」欄記載の各選定者のために,各選定者の記載に対応する別紙請求目録の「金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成29年12月31日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。


第2 事案の概要

本件は,弁護士である原告らが,別紙選定者目録記載の各選定者ら(以下,単に「各選定者ら」という。)のそれぞれが原告らを対象として弁護士法58条1項に基づく懲戒請求をしたことについて,上記各懲戒請求は違法なものであると主張して,被告(選定当事者)らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,原告らのそれぞれに,いずれも各選定者らのために選定者各自につき33万円及びこれに対する不法行為の日(遅くとも上記各懲戒請求が全て行い終わった日)である平成29年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 当初,各選定者らを被告として訴えが提起されたが,各選定者らは,本件の訴え提起後,いずれも被告らを選定当事者に選定した。

 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は認定に用いた証拠等を各項の末尾に掲記する。

(1)原告佐々木及び原告北は,いずれも東京弁護士会に所属する弁護士である。

2 東京弁護士会の会長は,平成28年4月22日,「朝鮮学校への適正な補助金交付を求める会長声明」(以下「本件声明」という。)を発出した。

本件声明の内容は,文部科学省が平成28年3月29日,朝鮮学校の所在する28都道府県に対し,朝鮮学校への補助金交付に関して,朝鮮学校にかかる補助金の公益性,教育進行上の効果等に関する十分な検討や補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保などを要請する「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」を発出したことについて,文部科学省に対し,憲法や国際人権規約等の趣旨などに照らし,同通知の早期撤回を求めるとともに,地方公共団体に対し,朝鮮学校に対する補助金の適正な交付を求めるものであった。(甲 5)


(3)各選定者らは,遅くとも平成29年12月31日までに,東京弁護士会に対し,原告佐々木を対象とする弁護士法58条1項に基づく懲戒請求をそれぞれ行った(以下,原告佐々木に対する各選定者らの上記懲戒請求を併せて「本件懲戒請求1」という。


本件懲戒請求1は,「余命三年時事日記」と称するウェブサイト上で公開されている懲戒請求書のひな形を用いており,各選定者がそれぞれ署艦押印するなどして懲戒請求書を完成させ,提出したものである。なお,上記ウェブサイトは,インターネット上で原告佐々木を含む弁護士に対する懲戒請求を呼び掛けており,上記ひな形は,原告佐々木を含む複数の弁護士を懲戒対象者とし,懲戒事由として「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し,その活動を推進する行為は, 日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である。」と記載されている。(甲2, 3の1~3の4, 3の6~3の10,甲9,弁論の全趣旨)

原告佐々木は,平成29年9月20日,ソーシャル・ネットヮーキング・サービスの「Twitter」(以下「ツイッター」とぃぅ。)に,「ささきりょう@ssk_ryO」名義のアカウントを用いて,各選定者らを含む多数の者から本件懲戒請求1と同様のひな形を用いた懲戒請求を受けたことについて,「本件は,『保守派』の弁護士の先生たちも,私への懲戒請求には『ひどい』とおっしゃって下さらてぉりますよ。」と投稿した。

 原告北は,「ノースライム@nOOOO。。。。rth」名義のアカウントを用いて,実名及び弁護士であることを明示してツィッターを利用しており平成29年9月21白,原告佐々木の上記投稿を引用して,「保守派といいますかささき先生とは政治的意見を全く異にする弁護士ですが:今回のささき先生に対する根拠のない懲戒請求は本当にひどいというか頭おかしいと思いますし, ささき先生に生じている損害の賠償は当然に認められるべきだと考えています。」と投稿した(以下,原告北の上記投稿を「本件ツイー卜」という。(甲6, 7, 10)


 各選定者らは,遅くとも平成29年12月31日までに,東京弁護士会に対し,原告北を対象とする弁護士法58条1項に基づく懲戒請求をそれぞれ行った(以下,原告北に対する各選定者らの上記懲戒請求を併せて「本件懲戒請求2」という。

本件懲戒請求2は,原告北を懲戒対象者とし,懲戒事由として本件ツイー卜を引用するとともに「根拠がなぃと言っている点ですでに弁護士失格。懲戒請求者への桐喝と捉え,脅迫罪をもつて懲戒を求める。」と記載した懲戒請求書のひな形を用いており,各選定者がそれぞれ署名押印するなどして懲戒請求書を完成させ,提出したものである。(甲4の1~4の4,4の6~4の10,弁論の全趣旨)


争点及び争点についての当事者の主張

(1)本件懲戒請求1が不法行為に該当するか(争点(1))

ア原告佐々木の主張

原告佐々木は,本件声明の作成にす切関与しておらず,平成29年当時,本件声明が発出されている認識すらほとんどなく,また,朝鮮学校への補助金交付に賛成・援助する立場での活動や情報発信などもしたことがなかつた。このように,各選定者らは,原告佐々木が本件声明に何ら関与してないにもかかわらず,原告佐々木の本件声明への関与状況について何ら

の事実調査もせずに本件懲戒請求1に及んだ。

また,原告佐々木が本件声明に関与していたとしても,朝鮮学校に通う人々に対して様々な差別がされてきた歴史的経緯に鑑みればその行為は基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする弁護士の活動として許容されることで,本件声明に関与したことが懲戒事由とならないことは明らかである。

そうすると,本件懲戒請求1は,各選定者らが懲戒請求として事実上又は法律上の根拠を欠くことを知りながら又は通常人が普通の注意を払えばそのことを知り得たにもかかわらずあえてされたものであって,不法行為に該当するといえる。

したがつて,各選定者らは,原告佐々木に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

イ被告らの主張

東京弁護士会所属の弁護士は東京弁護士会の会長を選任する権限を有しているから,会長声明に関与して推進しているとみるのが社会通念上当然であるところ,原告佐々木は本件声明に対する反対運動や抗議活動を行つておらず,原告佐々木が本件声明に賛同してその活動を推進していたとみなすことに何ら不都合はない。そして,本件声明は憲法に反する違法なもので,原告佐々木が本件声明に賛同してその活動を推進しているとみなすことができる以上,各選定者らが根拠なく本件懲戒請求1をしたということはできない。


そもそも,懲戒請求は弁護士会が弁護士の非行を把握するための端緒を広くすることを目的する弁護士法58条1項に基づくものであり,懲戒請求者が懲戒請求をするに当たり相応の根拠を必要とするわけではない。また,懲戒請求が不法行為に当たるか否かは,懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠くことを知りながら又は通常人が普通の注意を払えばそのことを知り得たにもかかわらずあえてされたかではなく,懲戒請求が受忍限度を超えるものであるかによって判断されるべきである。そして,本件懲戒請求1は受忍限度を超えるような懲戒請求ではない。したがつて,本件懲戒請求1は不法行為に該当せず,各選定者らは,原告佐々木に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負わない


②本件懲戒請求2が不法行為に該当するか(争点12))

ア原告北の主張

本件ツイートは,本件懲戒請求1について根拠がないと指摘する正当なものである。また,本件ツイートには桐喝というべき内容や脅迫罪を構成する内容もないそうすると,本件ツイートについて懲戒事由はなく,そのことは通常人でも容易に理解できたはずであるから,本件懲戒請求2は ,懲戒請求として事実上又は法律上の根拠を欠くことを知りながら又は通常人が普通の注意を払えばそのことを知り得たにもかかわらずあえてされたものであって,不法行為に該当するといえるもまた,各選定者らを含む原告北に懲戒請求をした多数の者の中には,本件声明等に対する意見表明の手段として本件懲戒請求2をした者もおり,上記のような意見表明を目的として懲戒請求をすることが弁護士懲戒制度の制度趣旨に照らして相当でなし`ことは,通常人が普通の注意を払えば知り得ることである。加えて,各選定者らを含む原告北に懲戒請求をした多数の者の中には,原告北に対する懲戒処分がされることをそもそも期待していなかった者もおり,このような者については,懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠くことを知りながら故意に懲戒請求をしたといえる。

 そうすると,これらの観点からも,本件懲戒請求2は不法行為に該当するといえる。

なお,本件ツイートのうち「本当にひどいというか頭おかしいと思います」という表現については,原告佐々木に対する多数の懲戒請求が不当であることを指摘する目的で,一般の読者にとって分かりやすくッィッターや一般社会で用いられるありふれた表現をしたにすぎないから,上記の表現を用いたことは懲戒事由とはならない。また,本件懲戒請求2では上記の表現を懲戒事由としておらず,本件ツイートの表現を理由に,本件懲戒請求2に根拠があるとはいえない。

したがつて,各選定者らは,原告北に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。


イ被告らの主張

上記(1)イのとおり,本件懲戒請求1は根拠があるもので,本件ツイートは法の専門家として失当の言動で弁護士失格といえる。また,本件ツイートは,「頭おかしい」という表現を用いており懲戒請求者を誹謗中傷する名誉棄損にも相当する内容であるし,「ささき先生に生じている損害の賠償は当然に認められるべきだと考えています」といぅ部分は桐喝ともいうベき内容である。このように,本件懲戒請求2は相応の根拠があってされたものである。

そもそも,懲戒請求は弁護士会が弁護士の非行を把握するための端緒を広くすることを目的する弁護士法58条1項に基づくものであり,懲戒請求者が懲戒請求をするに当たり相応の根拠を必要とするわけではないしまた,懲戒請求が不法行為に当たるか否かは,懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠くことを知りながら又は通常人が普通の注意を払えばそのことを知り得たにもかかわらずあえてされたかではなく,懲戒請求が受忍限度を超えるものであるかによって判断されるべきである。そして,本件懲戒請求2は受忍限度を超えるよぅな懲戒請求ではない。

したがつて,本件懲戒請求2は不法行為に該当せず,各濯定者らは,原告北に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。


損害の発生及びその額(争点13))

ア原告らの主張

慰謝料

一般に,弁護士にとつて懲戒請求がされることは,それ自体が社会的名誉や信用を害するおそれのある重大な出来事であり,いかに根拠のない懲戒請求であっても弁解をする必要があるなど他の弁護士業務にも影響を与えるものである。また,原告らは,インターネット上で原告らの氏名が広まったことから本件懲戒請求1及び本件懲戒請求2について全く根拠がないことを社会に説明するために記者会見をすることになるなどの対応を余儀なくされた。これらの事情等に鑑みれば,原告らの精神的損害を慰謝するための慰謝料として,各選定者らは,原告らのそれぞれに対して各自30万円を支払義務を負うというべきである。

弁護士費用本件懲戒請求1及び本件懲戒請求2と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金として,各選定者らは,原告らのそれぞれに対して各自3万円の支払義務を負うというべきである。

イ被告らの主張

原告らの主張は争う。

原告らに対して懲戒請求をした者は約1000人に上るところ,懲戒請求者一人当たり慰謝料と弁護士費用の合計として33万円を請求できるならば,原告らは総額3億円を上回る金額を請求できることになり,一般的な死亡慰謝料よりも多額の賠償金を得ることになるのであって,原告らの請求する賠償金額は社会常識に反する。

また,単に弁護士に対して訴訟追行を委任したこ´とをもって本件懲戒請求1及び本件懲戒請求2と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害が発生したということはできない。


第3 当裁判所の判断..

1 本件の訴えの提起が民訴法142条に違反するかについて

被告らは,本件の口頭弁論終結後に,当裁判所に対し,本件の訴えが民訴法142条に違反する旨の書面を提出していぅが,本件の訴えに係る当事者,請求の趣旨及び原因を同一にする訴訟がほかに係属しているとは認められない。

被告らは,原告らが各選定者以外の者を被告として提起した本件と同種の訴訟や,原告ら以外の懲戒請求の対象となった弁護士が原告となり,各選定者ら以外の者を被告として提起した本件と同種の訴訟の存在をもって,本件の訴えが民訴法142条に違反すると主張するものと解されるが,これらの訴訟が本件と当事者,請求の趣旨及び原因(訴訟物)を同一にするものでないことは明らかである。

したがつて,本件の訴えの提起は民訴法142条に違反しない。


2 本件懲戒請求1が不法行為に該当するか(争点(1))について

(1)ア弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そめことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解される(最高裁平成19年4月24日第二小法廷判決。民集61巻3号1lo2頁参照)

被告らは,上記第2の2(1)イのとおり,弁護士法58条1項が弁護士め非行を把握するための端緒を広くすることを目的とするものであることからすると,懲戒請求をするに当たり相応の根拠を必要とするものではなく,また,懲戒請求が不法行為に当たるか否かは受忍限度を超えるものか否かにようて判断すべき旨の主張をする。

 しかし,弁護士法58条1項が,請求者に対し恣意的な請求を許容したり,広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかであるから,同項に基づく請求をする者は,懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように,対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査,検討すべき義務を負うというべきであり, したがって,懲戒請求をするに当たり相応の根拠を必要としないとか,懲戒請求が不法行為に当たるか否かは受忍限度を超えるか否かによって判断すべきということはできない。被告らの上記主張は独自の見解であって採用できない。


 証拠(甲9, 10)及び弁論の全趣旨によれば,原告佐々木は,本件声明の発出に関与しておらず,また,本件声明の内容に賛同する活動もしていないことが認められる。

したがつて,本件懲戒請求1は,事実上の根拠を欠く懲戒請求であったということができる。そして,各選定者らが本件懲戒請求1をするに当たり,原告佐々木が本件声明の発出に関与したのか,また,本件声明の内容に賛同する活動をしたのかなどの事実関係を確認したことはうかがえず,かえって,各選定者らはこれらの点についても何らめ調査や検討をすることもなく本件懲戒請求1をしたことが認められる(甲9,弁論の全趣旨)。


被告らは,原告佐々木が本件声明に賛同してその活動を推進しているとみることができた旨の主張をし,その根拠として,原告佐々木が東京弁護士会に所属する弁護士で,本件声明に対する反対運動や抗議活動を行っていないことを挙げる。しかし,本件声明が,東京弁護士会会長が弁護士会内の手続に則り,会長の責任において特定の法的問題に対する意見表明をしたものであることは,本件声明の内容を読めば容易に判断できるものであり,原告佐々

木が東京弁護士会に所属する弁護士で,本件声明に対する反対運動や抗議活動を行っていなぃとしても,原告佐々木が本件声明に賛同してその活動を推進しているとみることのできるものではない。本件声明が各選定者らとは意見を異にするものであるとしても,東京弁護士会に所属する弁護士が本件声明に対する反対運動や抗議活動をし牟いことが各選定者らに対する不法行為を基礎づける違法な行為といえないことは,各選定者らも十分に認識できるものといえる。

したがつて,各選定者らは,本件懲戒請求1が事実上の根拠を欠くもあであることについて,通常人としての普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに本件懲戒請求1に及んだということができる。

 以上によれば,各澤定者らによる本件懲戒請求1は,事実上の根拠を欠くものであり,かつ,各選定者らは通常人としての普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのにあえて懲戒請求をしたということができるから,本件懲戒請求1は弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠く違法な懲戒請求として,不法行為を構成する。したがつて,各選定者らは,原告佐々木に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

3 本件懲戒請求2が不法行為に該当するか(争点12))について

(1)上記2(1)のとおり,弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を久くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解される。

②本件ツイートは,その内容に鑑みれば,本件懲戒請求1を含む原告佐々木に対する多数の懲戒請求が根拠のない不当なもので,原告佐々木の損害賠償請求は認められるべきであるという,原告佐々木に対する多数の懲戒請求が行われていることへの問題意識から,原告佐々木に対する懲戒請求を批判し原告佐々木の見解に賛同する意見を表明する目的でされたものといえる(甲10)。

そして,上記2で認定説示したとおり,本件懲戒請求1が不法行為に該当するものでもあることに照らせば,上記の目的自体は何ら懲戒事由に当たるものではないというべきである。

しかしながら,本件ツイートは,原告佐々木に対する懲戒請求について「頭おかしい」という侮辱的表現を用いている。たとえ明らかに根拠を欠く懲戒請求をすることを批判する目的で用いたものであるとしても,あえてそのような表現方法を採らなければならない理由はなく,「頭おかしい」という侮辱的表現が各選定者らを含む懲戒請求者を不必要に誹謗するものであるとの評価は免れない。しかも,本件ツイートは,弁護士である原告北が,弁護士である旨を公開している自らのアカウントを用いて投稿したものであり,上記表現を見た者において,弁護士の品位についての疑義を生じさせるおそれのあるものでもあるというべきである。

 そうすると,本件ツイートの投稿が,弁護士としての品位を失うべき非行(弁護士法56条1項)に該当するとみる余地もあるというべきであり,本件ツイートを懲戒事由とする本件懲戒請求2が,事実上又は法律上の根拠を,欠くものとみることはできない。


 原告北は,上記第2の2唸)アめとおり,各選定者らを含む原告北に対する懲戒請求をした多数の者の中に,本件声明等に対する意見表明の手段として本件懲戒請求2をした者がいることをもって,本件懲戒請求2が不法行為に該当する旨の主張をする。しかし,各選定者らの中に政治的主義・主張の実現を目的の一つとして本件懲戒請求2をした者がいたとしても(甲 22),それらの者についても,本件ツイートを問題視する目的も併存していたことは明らかであり,政治的な意見表明の手段とする目的も有することによって直ちに本件懲戒請求2が事実上又は法律上の根拠を欠くものになるとはいえず,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認めることもできない。

 さらに,原告北は,上記第2の2鬱)アのとおり,各選定者らを含む原告北に懲戒請求をした多数の者の中には,原告北に対する懲戒処分がされることを期待していなからた者もおり,このような者については懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠くことを知りながら故意に懲戒請求をしたといえる旨主張する。しかし,懲戒請求者の懲戒処分に対する期待の有無と,懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠くことに対する認識とが論理必然的に結びつくものではないことに加え,各選定者らが原告北に対する懲戒処分がされることを期待していなかったことを認めるに足る証拠はない。したがって,原告の上記主張は採用できない。

 以上によれば,本件懲戒請求2は不法行為に該当するといえず,各選定者らは,原告北に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負わないから,その余の点について判断するまでもなく,原告北の請求は理由がない。


4 損害の発生及びその額(争点(3))について

(1)原告佐々本は,本件懲戒請求1がされたことにより,東京弁護士会の綱紀委員会での調査が開始され,同委員会に対して弁明のための答弁書の提出を余儀なくされたほか(甲9,弁論の全趣旨),上記のとぉり事実上の根拠を欠くものであったとはぃぇ,本件懲球請求1がされたことにより,原告佐々木の社会的評価や弁護士としての業務上の信用に影響が生じたとみることができる。

 他方,各選定者らによる本件懲戒請求1は同一の懲戒事由によるものであり,原告佐々木が余儀なくされた綱紀委員会での調査への対応も同一かつ統一的であったものといえる。

 以上の諸事情のほか,本件に現れた一切の事情を考慮すれば,本件懲戒請求1による原告佐々木に生じた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は,各選定者ら各自について15万円とするのが相当である


②また,証拠(甲8の1, 8の2,甲9)及び弁論の全趣旨によれば,原告佐々木は,本件懲戒請求1と同様の事由を懲戒事由とする多数の懲戒請求を受けていることが認められるところ,広島県内に住居を有する選定者らによる懲戒請求に関する本件訴えについて,他の弁護士に訴訟追行を委ねる必要性は認められる。そして,原告佐々木に生じた弁護士費用相当の損害金は本件訴訟の内容及び難易度,上記の慰謝料の額その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,各選定者ら各自について, 1万円の範囲で相当因果関係のある損害と認めることができる。

 以上によれば,各選定者らは,原告佐々木に対し,不法行為に基づく損害賠償債務として,各自16万円の支払義務を負う。..

 以上によれば,原告佐々木の請求は,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,いずれも各選定者らのために選各自につき16万円及びこれに対する不法行為の日(遅くとも本件懲戒請求である平成29年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその範囲で認容し,その余は理由がないから棄却し,原告北の請求はいずれも理由がないから全て棄却することとして(なお,訴訟費用についての仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととする。主文のとおり判決する。


広島地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官 谷村武則..

裁判官    能宗美和

裁判官    信吉将伍






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